今後の「内子町」同和対策のあり方について意見書
愛媛県人権対策協議会内子支部 支部長代行副支部長 村 上 宏 史

はじめに
 昭和40年に同和対策審議会が「同和地区に関する社会的及び経済的諸問題を解決するための基本的方策」について内閣総理大臣に答申(以下「同対審答申」という。)し、「同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である。」ことを指摘、「その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」と明示して以来、37年が経過した。
 この間、昭和44年に制定された同和対策事業特別措置法以来、地域改善対策特別措置法、地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律(以下「地対財特法」という。)と、3つの特別措置法に基づき、33年間にわたって特別対策が講じられてきた。
 特別対策の実施により、同対審答申で指摘された同和地区の生活環境等の劣悪な実態は一定の改善をみ、較差は全般的には是正されてきているが、就学、就労等における較差が充分に解消されているとは言い難い。
 また、心理的差別面においてもその解消が進み、その成果は全体的には着実に進展をみているが、差別事象は依然としてあとを絶たない。
 また、平成8年に成立した人権擁護施策推進法に基づいて設置された人権擁護推進審議会において、人権教育・啓発に関する基本的事項と、人権侵害に係る被害救済制度についての審議が行われ、人権教育・啓発に関する基本的事項については平成11年7月29日に、人権救済制度のあり方については平成13年5月25日に答申が出されている。
 人権教育・啓発については、平成12年11月29日に人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(以下「人権教育・啓発推進法」という。)が議員立法として成立し、12月6日に施行された。
 この法律では、人権教育・啓発に関する施策の推進を国及び地方公共団体の責務と位置付け、国に基本計画の策定と年次報告を義務づけし、財政上の措置を規定している。
 一方、「人権の世紀」と呼ばれる21世紀を迎え、「人権教育のための国連10年」などの国際的な人権尊重の流れの中で、国連の「人種差別の撤廃に関する委員会」は、昨年3月、日本に対し、同和地区の人びとを含めすべての人びとが、差別に対する保護ならびに市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利の完全な享受を確保するよう勧告した。
 平成8年に出された地域改善対策協議会意見具申(以下「地対協意見具申」という。)にも述べられているように、同和問題などさまざまな人権問題の早期解決は、「あらゆる差別の解消を目指す国際社会の重要な一員」である我が国の、国際的な責務となっている。

 内子町におかれては、意見を尊重し、今日までの内子町の同和対策の成果が損なわれないよう行政の継続性にも配慮しながら、昨今の厳しい財政状況のもと、施策の効率的、効果的な実施に努めつつ、同和問題の早期解決のために積極的な施策の推進に当たられるよう要望するものである。

第1 同和問題解決のための基本方向
1 同和問題に関する基本認識
 20世紀は、二つの世界大戦を経験した「戦争の世紀」といわれているが、人類は、「平和のないところに人権は存在し得ない」「人権のないところに平和は存在し得ない」という大きな教訓を得た。
 人権の尊重こそが平和の礎であるという世界共通の認識に基づき、21世紀は「人権の世紀」と呼ばれている。
 我が国固有の人権問題であり、日本国憲法で保障された基本的人権の侵害に係る深刻かつ重大な問題である同和問題について、同対審答申が、「同和問題の解決は国の責務であると同時に国民的課題である」と指摘しており、人権の世紀といわれている21世紀を迎えて、国や地方公共団体はもとより、国民一人一人が同和問題の解決に向けてより一層主体的に努力していかなければならない。
 そのためには、地対協意見具申で指摘しているように、基本的人権を保障された国民一人一人が、同和問題を自分自身の課題として人権問題という本質から捉え、解決に向けて努力するという、広がりをもった取組みが求められている。
 これまでの成果と課題を踏まえ、就労、教育等における課題や、依然として差別事象があとを絶たない現状を厳粛に受け止め、「同和施策とは、部落差別をなくすための施策である」という認識に立って、住民に充分理解される取組みを行い、同和行政を進めていく必要がある。

2 同和問題解決への取組みの経緯並びに現状と課題
(1)これまでの内子町の経緯
 昭和44年、同和対策事業特別措置法が制定され、実態調査に基づきいわゆる「地区指定」が行われた地域を対象に、内子町においても、より具体的な同和対策が行われることとなった。この時期から同和対策に関する長、中期計画が立てられ、計画立案や進捗状況を(県同和対策協議会内子支部)に報告され、審議してきたことからも、その熱意がうかがわれる。
 以来、地域改善対策特別措置法、地対財特法による国の特別対策事業などにより、内子町は32年間にわたって総合的な同和対策事業を推進してきた。
 内子町のこうした歴史的な取組みにより、同和行政は一定の成果をあげてきたが、それは内子町行政や(県同和対策協議会内子支部)、住民が部落差別の撤廃を目指して連携・協力し積み上げてきた努力の結果である。

(2)現状と課題
 この間の対策により、同和問題は環境改善などの基盤整備が進展するなど、較差是正という観点から一定の成果をあげた。しかし、内子町の特徴である少数散在型である同和地区においては、国の特別対策では総合的な対策が困難であるという問題が残った。
 また大学への進学率にみられる問題、不安定就労の問題、産業面での問題など、依然としていくつかの課題が存在している。
 意識面については、行政、住民、各種団体等が連携して、差別意識解消に向けての教育・啓発事業に積極的に取り組んできた成果として、人権を尊重する意識は全体として高まってきてはいるが、潜在する差別意識は消えず、差別事象は依然としてあとを絶たない。
 特に最近の特徴は、差別落書き、差別文書、差別電話等、差別者を特定できない陰湿な差別事象の発生や、インターネットを使った新たな形態の差別事象も発生してきていることなどである。
 また結婚差別は未だ厳しく、表面化しにくい現状がある。
 これらの差別による人権侵害については、救済制度の充実が、国においても指摘されており、これからの課題となっている。
 一方、これらの差別の解消を目指し、内子町人権条例が制定されており、差別撤廃への意思が広がってきている。
 さらに人権教育・啓発推進法の成立により、地方公共団体においては、人権教育・啓発に関する施策を推進していくことが求められている。

3 今後の施策の基本的な方向
 特別対策事業は、一般対策から取り残されてきた同和地区の、劣悪な生活環境等を早急に改善するという事業実施の緊要性にかんがみ、集中的に事業実施を進めるために行われたものである。
 国においては、これまでの特別対策事業については、おおむねその目的を達成できる状況になった趣旨から、平成13年度末をもって終了し、教育や就労における較差の是正など、なお残された課題についてはその解決のため、一般対策に工夫を加えつつ対応することとなった。
 同対審答申は、「部落差別が現存するかぎりこの行政は積極的に推進されなければならない」と指摘しており、また地対協意見具申では、「一般対策移行後は、従来にも増して、行政が基本的人権の尊重という目標をしっかりと見据え、一部に立ち遅れのあることも視野に入れながら、地域の状況や事業の必要性の的確な把握に努め、真摯に施策を実施していく主体的な姿勢」が求められている。
 先にも述べたとおり依然として差別が現存している内子町の実態に照らせば、同和問題の早期解決を目指す取組みは今後とも主体的な姿勢で推進していかなければならない。
 以上の国の動向や内子町の現状にかんがみ、特別対策事業については平成13年度をもって終了することとし、先にふれた環境・教育・生活面での較差の是正など、なお残された課題については、その解決のため、同和施策という観点から、一般対策に差別の実態に則して工夫を加えつつ対応するという基本姿勢に立つべきである。
 また、内子町として部落差別が現存する限り、同和問題の解決を目指す同和行政を「あらゆる差別をなくす」総合政策の原点として位置付け、教育・啓発を中心とした適切な施策を講ずる必要がある。
 さらに、施策の推進にあたっては、内子町同和行政の歴史と取組みの経過を尊重し、現況にも配慮して、内子町行政、住民、内子町人権対策協議会、内子町人権同和教育協議会、各種団体との連携を図るべきである。

第2 同和問題解決のための施策の方向
1 内子町単独事業の方向について
(1)環境改善事業等の基盤整備に関する事業、個人給付事業
 環境改善事業等の基盤整備に関する事業については、一般対策移行後は、較差の解消に配慮し、実態に応じた施策を講じる必要がある。
 また較差是正など必要な事業は、制度の工夫により行うことも必要である。
 既に着手済みの継続事業等で、特別対策を直ちに終了した場合に当該継続事業の完了に支障を生じるおそれの大きい事業については、経過措置等を講ずる必要がある。
 個人給付事業については、国は、今日までの同和対策事業の実施により、同和地区の経済的基盤も高まってきており、生活救済的な緊要性が薄まったとして、法期限切れである平成13年度末をもって特別対策事業を終了することとしている。
 内子町おいても、今後は一般対策により対応すべきである。
 なお、奨学金制度については、国は特別対策事業として実施する奨学金制度を廃止し、県が一般対策事業として実施する奨学金制度を支援する方針であり、内子町としても、自立促進の観点に立ち、既存の一般奨学金制度を活用し、あるいは改善等の工夫を凝らして実施する必要がある。
 制度終了を周知する必要がある事業については、経過措置を講ずる必要がある。

(2)意識調査の必要性
 今後内子町において部落差別を早期に解消するためには、その施策を的確に行うためにも、引き続き「県民意識調査」など、できうる限り科学的な資料による対応が求められる。

(3)人権に関わる相談体制の整備
 部落差別などの人権侵害を受けた場合、当事者が自らの主体的な判断に基づいて解決できることが大切であり、それを支援するための相談事業は、今後ますます重要な役割を果たすことになる。
 人権問題は、同和問題をはじめとして、女性、障害者、外国人等さまざまな分野で、時には複雑に絡み合って発生しており、その内容も多様化している。
 したがって、相談事業にも、相談活動を行っている関係機関、関係団体等の協力を得て、より専門的な立場からの、事案に則した具体的な対応が求められる。
 また一方で、人権侵害を受けた相談者の立場からすれば、相談すべき窓口が明確であり、かつ、相談しやすい身近な総合的窓口体制が求められている。
 国では、人権擁護推進審議会答申に基づく人権救済機関の具体化の検討を進めており、また、人権擁護委員制度の見直しにも着手していることから、これらの動向も視野に入れながら、住民にとって利用しやすい相談体制の整備を行う必要がある。

2 教育・啓発のあり方について
(1)人権教育・人権啓発の推進
 差別意識の解消は、全体としては改善の方向にあるものの、依然として差別事象は発生しており、人権を尊重する意識の浸透も充分であるとはいえない。
 これまでさまざまな手法で施策が推進されてきた教育及び啓発事業の果たすべき役割は、今後ますます大きくなり、教育・啓発は、人権・同和問題の解決に向けて引き続き積極的に推進していくべきである。
 内子町がこれまでの同和問題の解決に向けての手法やその中で得られた成果、問題点等を踏まえ、同和問題を重要な柱としてすべての人の基本的人権を尊重していくための人権教育・人権啓発の推進という視点から、21世紀にふさわしい教育・啓発の推進方法を再構築していく必要がある。
 また、20世紀の2度にわたる世界大戦の反省から、戦争こそ最大の人権侵害であり、平和のないところに人権は存在し得ないという認識が生まれた今日、人権教育・人権啓発を進めるうえで、国際協調の視点は非常に重要である。
 さらに、国において策定される予定の人権教育・啓発推進法に基づく基本計画の内容を踏まえ、国際的人権感覚の視点も重視しながら、教員・社会教育指導者等の資質の向上、人材育成への取組みを進めるべきである。

(2)人権同和教育基本方針について
 同和教育基本方針については、その具体的な方策として、学校においては、幼児期や低学年期から発達段階に即し、学校や地域の実態に応じた多様な学習形態を取り入れるべきである。また、共生の視点に立って、人権の尊重される集団づくりや学習環境の整備を進める必要がある。
 一方、社会においては、人権教育にかかわるさまざまな団体等と連携を図るとともに、住民参加・参画の教育を進める必要がある。

(3)うちこ福祉館(人権啓発センター)の充実
 開館以来県内外各層から多くの来館者を集めており、広く住民に人権問題を考えてもらう場としての一定の役割を果たしている。
 今後は、21世紀にふさわしい総合的な人権センターを目指し、より充実した機能を発揮できるよう、施設も含めて見直しを図っていく必要がある。

3 内子町行政の体制と今後の方向について
 「内子町人権尊重まちづくり条例」が平成13年7月1日に施行された事を、先ず評価したい。
 今後、内子町人権尊重まちづくり審議会の充実を図られるを期待するものである。

 同和問題解決のための施策の推進にあたっては、平成16年10月1日に「新内子町」が誕生するが、内子町・五十崎町の合併において、内子町行政各部課・委員会等の有機的連携のもと、全庁的な取組みが必要であり、「地対財特法」失効後の現在、町民福祉課(同和政策課)及び教育課(同和教育課)の果たす役割は大きく、その有する総合調整機能を引き続き充分発揮することが求められる。
 また、人権の世紀の時代に対応した総合的な人権行政のあり方や新たな行政機能の充実についても検討されたい。
 さらに、意見書で指摘した問題について、今後の内子町の総合的な人権・同和施策の基本的方向を示すべきである。

追記 この度、内子町・五十崎町・小田町の3町合併が決定した。
 愛媛県人権対策協議会内子支部・愛媛県人権対策協議会五十崎支部愛媛県人権対策協議会小田支部の3支部も合併する事になる。
 この合併に関しては、これから慎重に協議に入る。